杜 いづみ 作

サンタへのプレゼント








クリスマスの朝のことでした。 ゆうべはいつになく大吹雪でしたが、今朝はまるでうそのように晴れ渡り、森中が輝いておりました。

嵐の中を走り回ってプレゼントを配ったサンタクロースは、疲れてまだ眠っています。
サンタの奥さんが、赤い服や靴や手袋を洗って干しています。
「まったくゆうべはさんざんだったわね。 でも無事にお仕事がすんでよかったこと…」
そういいながら赤い服を逆さまにしてはたくと、ポケットから何かが落ちました。 それは小さな紙切れでした。

拾い上げてみると、何か書いてあるようでしたが、にじんでよく見えません。
「あらまぁ、確かめないで洗ってしまったから…」
奥さんは困った顔をして、サンタが起きたら聞いてみようと思いました。

お昼近くになって、サンタはようやく目を覚ましました。
「いやぁ、ゆうべはさんざんだった。 なんとか仕事は全部すんでよかったがな」

奥さんは大きくうなずくと、さっきの紙切れを見せて謝りました。
「ああ、あれか…。ほほう…なるほどなぁ…」
サンタは感心したようにそういうと、ゆうべの出来事を話し始めました。

サンタが吹雪の中、一軒の家に入ると、寝室にひとりの男の子が眠っていました。
プレゼントを置いて帰ろうとした時でした。 テーブルの上にあった紙に気付きました。
それには、こう書いてありました。

 『サンタさん、いつもプレゼントをありがとう。
  これはぼくからのプレゼントです。』

そして手紙の横には紙包みがありました。 そうっと開けてみると、中にはクルミがいくつか入っていました。
サンタはにっこり笑ってから、ちょっと困った顔をしました。

サンタの仕事は、子供たちにプレゼントを届けることではありましたが、子供たちの家から何も持ち帰らないという約束がありました。 例えそれが子供からの小さなプレゼントであろうとも。

サンタは首をすくめてそのまま立ち去ろうとしましたが、子供の気持ちを考えると黙って帰る気にはなれませんでした。
そこで、サンタは胸ポケットから鉛筆と紙を取り出すと、クルミの絵を描きました。そして、男の子の手紙の下にこう書きました。

 『おいしそうなクルミをたくさんありがとう。
  神さまとの約束で、プレゼントは持ってきても、
  何かを持って帰ることができません。
  でも君の気持ちは持って帰って大切にします。
                        サンタより』

それを聞いた奥さんは、 「あらまあ! それじゃぁこれは、そのクルミの絵が描いてあったんですか?」 と申し訳なさそうにいいました。
するとサンタがいいました。
「ああ、そうなんだ。 いや、いいんだよ。 消えちゃったってことはね、きっと絵でも持っていってはいけないってことなんだろう」
サンタは何度も大きくうなづきました。

サンタは窓を思い切り開けました。 陽の光がサンタの目に飛び込んできました。 すると、なぜか目の前にクルミがいくつも光っていました。 不思議に思ったサンタは、何度も眼をこすりました。  窓辺にクルミがいくつも並んでいたのです。

奥さんは、さっき木の上でリスたちが騒いでいたのを思い出しました。
「その子の気持ちが、届いたんですよ。 きっと…」
奥さんはそういうと、森に向かって手を振りました。


おわり

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