杜 いづみ 作


サンタのプレゼント V








あるクリスマスイヴのことでした。
その晩は雪は降っていませんでしたが、とても風の強い夜でした。

サンタが子供たちの家を回り終わって、家に帰ろうとした時でした。 突然吹いてきた風に、帽子が飛ばされてしまいました。

サンタは 「しまった!」 と思いましたが、すぐに帽子の行方を追いました。 白い雪原を赤い帽子が舞っています。  トナカイたちに帽子を追うようにいうと、ソリは少しずつ下へ降りて行きました。

やがて大きな森の上で、ソリはぐるぐると回り始めました。 サンタは下をのぞいて驚いた顏をしました。 そして、しかたがない というように首をふると、赤い上着に首をうずめてトナカイたちにいいました。
「仕事は終わった。 さあ、家に帰ろう!」

トナカイは空高く舞い上がると、サンタの家を目指して走り去りました。

やがて風がやんだ森は、何事もなかったかのようにしんと静まり返っていました。 でも、森の真ん中にいる小さなモミの木だけは、その晩起きたことに 驚いて朝まで眠れなかったのでした。

その森のそばには小さな町がありました。 町の人々はクリスマスが近づくと、森で一番大きなモミの木を切り倒して町へ運び、 クリスマスの飾りつけをするのでした。 今年もいつものように立派なモミの木を町の広場に飾りました。

森のモミの木たちにとって、クリスマスツリーになるのはとても名誉なことでした。 クリスマスのひと月前になると、町の若者たちが 森へやってきて、モミの木を選んで赤いリボンを結びます。 それは森で一番大きく立派だという勲章のようでした。

選ばれた木は、嬉しくもありましたが、近いうちに切られてしまうという運命を受け入れなければなりません。 周りの仲間たちとも、じきに別れなければなりません。 嬉しいような悲しいような不思議な気持ちでした。

サンタが森に帽子を落とした次の朝のことでした。 まだ他のモミの木の半分くらいしかないクスカは、ゆうべ頭の上にふわりと乗った 赤い帽子をみんなにからかわれていました。

「おーい、クスカ! そいつはサンタクロースの帽子じゃないか?」
「サンタのプレゼントかい?」
「おまえにぴったりだ。 似合うじゃないか!」

赤い帽子をかぶったクスカは、周り中からはやしたてられました。 恥ずかしいけれど、ちょっぴり嬉しいような妙な気分でした。 森を訪れた人々も驚いてクスカを見上げました。 そして口々にいうのでした。

「あれはサンタの帽子だ! どうしてあんな所に?」
「サンタが置いていったんだ。 この木は聖なる木かもしれない」
次の年から、人々は小さなクスカを残して、ツリーには周りの木を切っていきました。

やがて数年が経ち、クスカは森で一番大きな木になりました。 人々はクスカを切るかどうか相談に集まりました。 聖なる木を切るのはどうも…という意見が大半でした。  そこで、クスカの次に大きな木を切ろうということになり、みんなは森に出かけました。

森の真ん中までくると、切株に囲まれたぽっかり空いた場所に、クスカが赤い帽子をかぶって立っていました。 帽子はクスカの 頭からはずれることもなく、かぶった時のままみんなを見下ろしていました。

人々はしばらく黙ってクスカを見上げていました。 中には自分の帽子を取ってお祈りする人もおりました。

すると突然、若者のひとりが大声で叫びました。
「ここでこのままツリーにしたらいいよ!」

みんなはその素晴らしい提案に手をたたいて賛成しました。 やがて町中の人々が、手に手に飾りを持ってクスカのところへやってきました。 森の真ん中の広場に、きれいに飾られたツリーが出来上がりました。

そしてそれからは毎年、クスカがツリーになり、森のどの木も切られることはなくなりました。 クリスマスイヴになると、町の人々は 火を灯したロウソクを持って森に出かけ、ツリーを囲んで讃美歌を歌うのでした。

クスカはとても幸せでした。 そしてその晩、空をゆくサンタを見送るのが何よりの楽しみでした。

サンタは毎年、仕事を終えると必ず森の上をひと回りしてからうちへ帰りました。 帽子を落とした次の年に、 新しく神さまからもらった赤い帽子をふりながら。


おわり

(c)moriizumi


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