杜 いづみ 作


サンタのプレゼント U








サンタクロースがまだ新米の頃のお話です。 といってももう何百年も前のことですが…。

そのサンタが北の国から世界中の子供たちの所へプレゼントを運ぶ仕事についたのは、去年のことでした。
2代目のサンタクロースが年を取ったので、たくさんの見習いサンタの中から、 3代目として選ばれたのでした。

サンタの仕事について、2度目のクリスマスイヴのことでした。
サンタは大きな袋をソリに積みこみました。 もちろん袋の中には大勢の子供たちへのプレゼントがつまっていました。

サンタは胸のポケットをポンとたたくと、トナカイに合図をしました。
ポケットには、どこの誰にどのプレゼントをあげるのかが書かれたノートが入っていました。
トナカイは、鈴を鳴らして夜空へ舞い上がりました。

2度目とあって、サンタは去年よりも早く仕事が終りそうだと思いました。ほとんど配り終わったところで、胸のポケットのノートを見ました。
最後の2軒はユンカの家とレヌの家でした。 2つの家は、村が違って丘の向こうとこっちでした。

サンタはまず丘の手前のレヌの家に行きました。 煙突をくぐると、レヌの部屋へ行き、 袋から絵本を取り出すと、枕元にそっと置きました。 ぐっすり眠っているレヌはかわいい女の子でした。

それからサンタは最後の一軒のユンカの所へ行きました。 そしてユンカの枕元に小さなオルゴールを置いてきました。 ユンカは元気そうな男の子でした。

最後のプレゼントを渡し終わったサンタは、白い袋をたたんでやれやれとソリに乗り、北の国へ帰ったのでした。

次の日のことでした。
サンタクロースはクリスマスの朝、子供たちの様子を見るための特別な望遠鏡を持っていました。
枕元のプレゼントを見つけ、大喜びする様子を順ぐりに見ることができました。

サンタはこの瞬間が何より楽しみでした。 嬉しそうな子供たちの顔を見ると、昨夜の疲れもすっかり吹き飛んでしまいます。

その日の朝も望遠鏡を片手にサンタはにこにこと嬉しそうでした。
ところが、あの最後にプレゼントをあげたふたりの所で、サンタの顔が凍りつきました。

レヌは目が覚めると、手探りでプレゼントを見つけました。 ゆっくりと紙包みを開けると、きれいな 絵本が出てきました。
でもレヌはしばらくさわってから、とても悲しそうに首を振りました。

サンタは不思議に思って次のユンカをのぞいてみました。
ユンカは飛び起きると、急いで包みを開けました。 オルゴールの蓋を何度も開けたり閉じたりして から、突然放り出すと泣き出してしまいました。

じっと見ていたサンタは、もちろんすぐにふたりのプレゼントを間違って渡したことに気づきました。
そしてそれ以上にサンタを驚かしたのは、なんと、レヌは目が見えなくて、ユンカは耳が聞こえないことでした。
目の見えないレヌに絵本を、耳の聞こえないユンカにオルゴールを渡してしまったのでした。

サンタは取り返しのつかない失敗に、頭を抱えました。
一度渡したプレゼントは交換することはできません。 しかも皮肉にもお互いにまったく役に立たないものが渡ってしまったのでした。

しばらくしてサンタは、赤い服と帽子を丁寧にたたんで白い袋に入れ、トナカイのそりに乗って出かけました。
サンタの行った先は、見習いサンタから本物のサンタになる許しをもらった神さまの所でした。

サンタは神さまに間違ったプレゼントを渡してしまったことを詫び、白い袋を差し出しました。
すると、神さまは、
「誰にでも失敗はある。 二度としなければ、この失敗は君の財産になるはずだ」
といって、これからもずっと仕事を続けるようにと、サンタに袋を返してくれました。

サンタはそれ以来、このことをいつも頭の片すみに置いて、注意深く丁寧に子供たちの家を回りました。
そして二度と間違うことなく、毎年この仕事を誇りを持って続けました。


それから20年ばかりたったクリスマスイヴのことでした。
その年に初めて行ったある家で、サンタは神さまのいったほんとうの意味を知ったのでした。

その子はサンタクロースの話がようやくわかるくらいの小さな子供でした。
サンタはこれから何度かやってくるようになるはずの、その子の頭をそっとなでてやりました。
そしてプレゼントを置いて立ち去ろうとした時でした。

ふとそばのテーブルに目をやって驚きました。 サンタはそこに懐かしい物を見つけたのでした。

それは、古びた小さなオルゴールと絵本でした。 どちらも古くなって、傷もついていましたが、 確かに20年前にサンタが間違えて置いてきたプレゼントでした。

サンタの心の中で、レヌとユンカの悲しそうな顔が笑顔に変わりました。
「そうだったのか…」

サンタは何度もうなずいたり首をふったりしてから、眠っている子供に手をふりました。
「また来年来るからね」
そういうとうれしそうにソリに乗り込みました。
そしてその家の上を2回も回ってから飛び去りました。

夜空に鈴の音と、サンタの笑い声がひびき渡りました。


おわり

(c)mori izumi

TOP