杜 いづみ 作


サンタのプレゼント T








数年前までぼくのうちにもサンタクロースが来ていた。 怪獣、ミニカー、三輪車など、サンタのプレゼントが今でもたくさん 残っている。

サンタは小学六年生のクリスマスまでやって来ると誰かがいった。 中学生になると来なくなるらしい。 半分大人になるからかなと思った。

ぼくが小学4年生の時だった。 それまでおもちゃばかり頼んでいたぼくは、どこでも買える普通のプレゼントが、なんだかありきたりでつまらなく思えた。 ちょっぴり疑いの気持ちがまじっていたからかもしれない。

そこでぼくはちょっとサンタを困らせてやろうと思いついた。 デパートにもお店にも売っていないものにしようと思った。 さんざん頭をひねったあげく、 すごくいい考えが浮かんだ。

それは、 『絶対に減らないアメ』 だった。これならどこにも売っていない。 サンタの困った顔を想像するとおかしかった。

クリスマスの朝、目を覚ますと枕元に小さな袋があった。 ぼくはいったいどんなものが入っているのかと思って急いで袋を開けた。

すると、中から棒のついた大きなキャンディが出て来た。 そうっとなめてみると、ちっとも甘くなかった。 それはガラスかプラスチックのようなものでできていた。
確かに減りはしない。甘くないのと、サンタにしてやられた気がしてちょっとむかついた。

袋には手紙が入っていた。
『世の中そんなに甘くはない。 消えてなくなるからこそおいしさは心に残る。・・・・・サンタより』

次の年、ぼくはめげずにまた考えた。 何日もいろいろ考えたあげく、これならというものを思いついた。

それは、 『未来が見える眼がね』 だった。 今度こそ絶対に売っていないし、作ることもできないという自信があった。

そしていよいよクリスマスの朝、ぼくはわくわくしながら包みをほどいた。 ところが、出て来たのはごく普通の眼がねだった。 ただしレンズが白くにごっていた。 ぼくは半信半疑で眼がねをかけてみた。うすぼんやりと明るいだけで何も見えなかった。

それにはやっぱり手紙がついていた。 何か呪文でもとなえるのかと思って、大急ぎで読んでみた。

『君の未来はまだできていない。 君自身がこれから作るもの。 君の未来が明るいことだけは保証する。 ・・・・・サンタより』

ぼくはがっかりしたのと同時に、サンタもけっこうやるじゃんと思った。

六年生の春、ぼくはお父さんの転勤で引越しをした。 転校して仲良しの友だちと別れるのがとてもいやだった。 新しい学校ではなかなか友だちもできなかった。

その年のクリスマスはサンタがやって来る最後の時だ。 クラスでももうサンタを信じている子はほとんどいないみたいだった。

ぼくはプレゼントを何にするか、半分やけになって考えた。 品物はもう何も思い浮かばなかったし、きっとまたサンタにうまくかわされるにちがいない。 でも何か考えなくては。 これが最後かと思うとぼくも必死になった。

クリスマスがもう目の前という頃になって、ついにとっておきのプレゼントを考えついた。

それは、 『いつでもいっしょにいてくれる友だち』 だった。 前のことがあったので、なかばあきらめてはいたけど、その時それはほんとうにほしいものだった。

その日の朝、ぼくはサンタを本気で信じることにした。 サンタの最後のプレゼントは、本物の子犬だった。 手紙にはこう書いてあった。

『いつでも君といっしょにいて、君を見守っている。・・・・・サンタより』

子犬の名前はサンタにした。 その日からサンタはずっとぼくといっしょにいる。

次の年のクリスマスから、サンタクロースはもうぼくのうちには寄らなくなった。 でも、今でもクリスマスは一年中で一番好きな行事だ。


おわり

(c)moriizumi


TOP